ハードボイルドの巨匠ローレンス・ブロックの人気シリーズ「マット・スカダー」。このシリーズの主人公マシュー・スカダーは、AAの断酒会に通う私立探偵。
「酒を呑まないハードボイルド?」と疑問符を浮かべる人もいるかもしれませんが、かつては酒で失敗を繰り返していた酔いどれ探偵でした。
シリーズ5作目にあたる「八百万の死にざま」で、自分がアル中であることを認めて禁酒に至ります。禁酒の誓いがスカダー自身の足枷になるのではないか。過酷な状況に追い詰められたとき、また酒に逃げてしまうのではないか……。
可能ならシリーズ1作目から、スカダーの人生を追いかけるように、読み進めていただければより一層楽しめると思います。
あらすじ:
無免許の私立探偵スカダーは、旧知の高級娼婦エレインから突然連絡を受けた。かつて彼女の協力を得て刑務所に送りこんだ狂気の犯罪者モットリーが、とうとう出所したという。復讐に燃える彼の目的は、スカダーのみならずスカダーに関わった女たちを全員葬り去ることだった……。ニューヨークに展開される現代ハードボイルドの最高傑作!
引用元:二見文庫『墓場への切符』
冷酷非情な犯罪者モットリーの描写が凄まじい作品。本作はミステリというより、スリラーといった方がしっくりくるかもしれません。異常犯罪者が登場するスリラーというと下品なイメージを持つ人もいますが、そこは作家の腕の見せどころ。見事に品のあるハードボイルドに仕上がっています。
かつて罠にはめて刑務所送りにした犯罪者に復讐を予告され、知人を殺されてしまった。敵を追い詰めるはずが、逆に自分自身が敵の悪知恵に追い詰められてしまう。ウィスキーの酒瓶を見つめるスカダー……。
――これがウィスキーなのだと以前よく思ったものだ。ウィスキーというのは、裸眼で見るには刺激が強すぎる現実を、安全に見るためのフィルターのようなものだと(作中引用/p316)。
どのような結末を迎えるのか、終始ハラハラしっぱなしでした。
著者:ローレンス・ブロック
訳者:田口俊樹
出版:二見書房(二見文庫)