英国女流推理作家(ミステリの女王)アガサ・クリスティーといえば、ポアロやマープルなどの探偵小説が有名ですが、「おしどり探偵」として知られる「トミーとタペンス」も読者からの人気が高く、新作が発表されなかった時期には、その後の展開を望む声が世界中から寄せられたそうです。
今回紹介する『秘密機関』は、そんなトミーとタペンスの若かりし頃のおはなし。冒険好きのトミーと、好奇心旺盛なタペンス。ふたりが再会して「青年冒険家商会」なるものをつくったところからはじまります。
あらすじ:
お金をもうけよう――ひさかたぶりに再会した幼なじみのトミーとタペンスは、青年冒険家商会なるものをつくった。が、その直後、英国の極秘文書消失事件に巻き込まれてしまう。まもなく文書を狙う地下組織の大ボスが現われ、冒険また冒険の展開にふたりの運命は?好奇心にとっても富む名コンビ結成の記念的作品。
引用元:ハヤカワ文庫『秘密機関』
幼なじみのトミーとタペンスが再会。戦後の不況でお金がない。さあどうしよう。ふたりが考えたお金かせぎのアイディアとは、合弁事業をつくること。名前は「青年冒険家商会」。そうと決まれば広告を出そう!——若き冒険家二名雇われたし。何事も快諾、どこにでも参上。報酬よきものに限る。不当な申し出も可(作中引用/p31)——第一次世界大戦後というのに、若い男女のバイタリティは凄まじいですね。
行動を起こすのは好奇心旺盛なタペンスの方。慎重な性格のトミーは、直感で突っ走るタペンスのフォローに回ることが多いです。両極端な性格のふたりが盛り上げてくれて、軽快に物語が進行していくところが良かったです。
冒険のきっかけとなる合弁事業は、”お金かせぎのため”というより、”暇を持て余した若い男女の退屈しのぎ”という方がしっくりきます。それでこそ「トミーとタペンス」。ミステリと冒険がうまく融和した名作です。
著者:アガサ・クリスティー
訳者:田村隆一
出版:早川書房(ハヤカワ文庫)