英国ミステリの女王P・D・ジェイムズ。今回紹介するのは長編8作目にあたる『罪なき血(Innocent Blood)』。
「アダム・ダルグリッシュ警視」も、「女探偵コーデリア・グレイ」も登場しないノンシリーズものになりますが、1980年の発表と同時にベストセラーとなり、文学性の高いミステリとして高く評価されました。
謎解きミステリとは異なりますが、意外性、サスペンス要素もきちんと盛り込まれた作品です。
あらすじ:
18歳の誕生日を迎えて、フィリッパは実の両親を捜し始めた。だが彼女が探りあてたのは、父は少女暴行罪で服役中に獄死、母はその少女を殺害した罪で服役中という事実だった。母の出所が間近であることを知ったフィリッパは、出所後一緒に暮らす決意をする。だが娘を殺された父親もまた、復讐のために彼女の出所を待ち構えていたのだった……人の犯した罪とは何か、親子の絆とは何かを問うミステリの新女王の戦慄の問題作
引用元:ハヤカワ文庫『罪なき血』
実父は少女暴行罪で服役中に獄死、実母はその少女を殺害した罪で服役中。この衝撃的な事実を冷静に受け止めた娘フィリッパは、育ててくれた養父母を忘れてあっさり家を出てしまう。その理由というのが出所した実母と一緒に暮らすためというのだから、なんとも傲慢で冷たいんだろう。
また被害者の娘を殺された父親は、復讐のために出所したフィリッパの母親を殺害しようと計画を練る。これだけ影の多い人物がからみあい進行する物語なのだから、後味の悪い結末を迎える予感しかありません。
自分の親が殺人犯だったら、子供はどう接すればいいのか。かなり難しい問題を問いかける問題作です。
——あなたには二度と会いたくありません。あなたなんか、九年前に死刑になればよかったのよ。死んでしまえばよかったんだわ(作中引用/p421)
——愛してます。あなたが必要なんです。だから帰ってきました(作中引用/p430)
ネタばれになってしまうので詳細を省かせていただきますが、たとえこの物語が悲劇の結末を迎えたとしても、一読の価値ありです。
著者:P・D・ジェイムズ
訳者:青木久恵
出版:早川書房(ハヤカワ文庫)